愛を取り戻せないから Love is over
スロットという存在において重要な構成要素とは?
リール配列、機械割、出目、演出・・・・
上げていけばキリはなく、また、
人によって求めるものは異なる。
僕にとって重要なものは音、音楽だった。
オリジナルの楽曲を聴きたいが為だけに
クソほど出ない台を打つことも珍しくなかった。
スロットというものを語る上で
楽曲が占める演出効果は欠かせない。
ボーナス当選の高揚感や
これから始まる出玉爆発への期待感を煽る。
スロット界の楽曲センスは素晴らしいの一言に尽きる。
別に単体のレーベルを立ち上げても成功するのでは?
そんなことすら思えてしまう。
中でも筆頭に挙げられるのは大都技研。
番長シリーズ、秘宝伝シリーズ、Shakeシリーズ。
忘れちゃいけないジャッカスチームに忍魂。
キャッチーな曲調とボーカルの声質が
絶妙にマッチしている素晴らしい楽曲だらけだ。
「押忍、操」の曲を楽しみたいが為だけに
2400Gもハマり続けたのはいい思い出だ。
無限ART中じゃなければ悪夢になっている所だったが。
オリジナル楽曲だけではない。
タイアップ機に収録されている耳慣れた楽曲が
台の世界観の演出に一役買っている。
北斗シリーズの「愛を取り戻せ」「Tough Boy」
毎週のアニメ放映を楽しみにしていた頃の気持ちが蘇る。
どんな分野においても天才と呼ばれる人間は存在する。
楽曲制作や選曲センスという点において
スロット開発に携わる人々の感性は優れている、
いや、僕の嗜好にぶっ刺さる感性の持ち主が多い。
だからこそ長年の間、スロットを楽しんでいたのだろう。
思えばあの時代もそうだった。
4号機から5号機への遷移も落ち着き、
開発者の尽力にて規制の穴を突くような出玉性能や
試行錯誤されたシステムを有する台が増えたことにより、
ホールには賑わいと喧騒が戻り始めていた。
この時代は足しげくホールに通っていた。
狙い台が外れたり、展開が悪くどうしようもなく
気持ちが折れてしまった時に、
僕は決まってある行動をとっていた。
誰も座らぬ4台島の角台に腰を降ろす。
「超お父さん2」のコーナーに。
目的はビックボーナスを引くことだ。
それまでは何が起ころうと打ち続ける。
この「超お父さん2」
台のネーミングもさることながら
色々な点において独特なセンスの塊とも言える台だった。
世界観しかり、そして楽曲センスしかり。
ビックボーナスは3種類から選べた。
うろ覚えだが、ベタにチャンス、完全、後告知、それぞれ
「お父さんビック」「お姉さんビック」「お母さんビック」
この3つだったと思うがそれはどうでもいい。
這う這うの体にて掛けたビックボーナス、
迷わず選ぶは「お母さんビック」
レバーonと同時にイントロが流れ出す、
欧陽菲菲、「Love is over.」
負け戦の締めにお母さんビックを消化すると
溢れくる喪失感と焦燥感、哀愁の念に浸ると同時に
どことない癒しを感じることが出来た。
何というか「これで終わりにしよう。」
そんな気持ちの整理がつくような感じだった。
「Love is over」 負け戦の終わりに相ふさわしく、
正にこれしかないというべき曲だった。
ボーナスを消化し終えるとクレジットを落とし、
ホールを後にする、これがこの時代のルーティンだった。
高揚感を煽り稼働を上げる為の構成要素であるはずの
ボーナスのBGMに何故にこの曲を選んだのであろう?
開発者の意図に頭を悩ませると同時に
奇才のセンスに脱帽していた。
スロットに触れるようになって
得たものより失ったものの方が遥かに多い。
時間、機会、交流・・・・
僕は人にスロットを勧めることは絶対にない。
しかしながら、僅かながら、ほんの一握り、
得たものがあるとするのならば、
変人、奇才が魍魎跋扈するこの業界の
ぶっ飛んだ感性に触れることが出来たことだろう。
いかれた自分を押し殺しながら
社会生活を続けるストレスを
波長の合う感性に触れることで癒していた。
一般とはかけ離れた感性を持つものには
外れたものなりに呼吸が出来る居場所が必要だった。
コンプライアンスの波がこの業界に与えた影響は
出玉面の規制だけではない。
台自体の演出やホールの雰囲気やルールまで
どこかお行儀良く過ごすような空気感に支配されている。
テンプレ通りのカッコよさに準じた
楽曲や演出、台のシステムではなく、
ぶっ飛んだカッコよさや、ぶっ飛んだ感性を
有する台もとんと見なくなったものだ。
だからこそ、僕も愛を感じなくなり
ホールから遠ざかったのだろう。
惰性の習慣から脱却した時、あの曲が聞こえた。
「終わりにしよう、キリがないから・・」と。
いつかこの風潮が払拭され、
混沌の空気感が漂い始めたのならば
最後にもう一度だけホールに足を運ぶとしよう。
その時には「Love is over」の衝撃を越える楽曲を
収録した台がホールに登場することを願う。
暇で暇でどうしようもない方は宣ければ
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